3. 事故に遭う危機
https://gyazo.com/e93513339d59ccc881518fcfe2585034
1. 「利益第一」の企業姿勢がもたらした事故の例
マニュアルに従わず、作業効率を優先し、勝手に簡素化してしまった手順で核物質を取り扱った
2005年4月にJR福知山線で起きた列車脱線事故
脱線した列車がブレーキ操作の遅れにより、右カーブに時速約116kmで侵入し、脱線
このカーブは以前からスピードが出やすい魔のカーブとして危険性が認知されていた
事故の直接的な原因は運転士による速度調節の失敗
間接的な原因として、会社の体質が抱える複数の問題点が指摘された
安全よりも会社の利益を優先する姿勢
当時のアメリカは不景気のために労働環境は劣悪で危険
USスチールの社長であったゲーリーが人道的検知から「生産第一、品質第二、安全第三」という当時の会社の経営方針を改め「安全第一、品質第二、生産第三」とした
経営者にとって大事なもの
本来この標語が置かれるべきは、作業の現場であるよりは、作業員を働かせている企業の経営者のもとだと言える
2. 職場のあんぜんサイト
厚生労働省が毎年発表している労働災害の発生状況に関する統計資料
基になっているのは、全国の職場からの、労災保険の申請の対象となる、死亡事故から4日以上の休業を余儀なくされる傷害までを負った労働災害の報告数
https://gyazo.com/56e0c4ed553f783f2f6dad7294c37bed
発生した事故件数の全数は不明だが、少なくとも労働現場での事故の被災者数に関しては半減
2009年以降は停滞
1973年には労災による死傷者数は40万人に達していたので、大きく減少していることは明らか
事故の原因は利益を優先させるために、安全への配慮や付加設備の設置などを怠るためとか、機械道具の未整備などだけであるわけではない
作業をする人のヒューマンエラーによる事故が存在し、これはいくら機械の性能を高めても、安全教育を徹底させてもなくならないと考えられる
3. ヒューマンエラーの要因
狩野(1959)
「その事故原因として『本人の不注意』が指摘されることが多く、事故、災害の防止には『作業者の不注意を喚起し、あるいは安全教育に力を入れるべき』ということで尽きるような考え方が世の中の経営者、技術者、安全管理者には、極めて多いし、これが一般のようである」
この朱の事故が本人の意識・態度を改めるだけでは決して防げないことを強調
今日でも中條(2006)が同じ指摘をしている
「エラーは人の注意力によて防げる」「エラーは教育・訓練・動機づけによって防げる」という誤解をまず払拭しなければならない
狩野(1959)は、実際の事故事例を基に、人が不注意になってしまう条件を複数指摘している
当時の事例であっても、それを基に彼が行っている人間の不注意発生条件に関する考察は今日にもそのまま通用すると思われる
3-1. 温度・湿度と動作の錯誤
真夏に外で行う作業の場合など、温度や湿度の条件は人の注意力を大きく奪う可能性がある
桐原(1928)は、0℃から45℃まで5℃刻みで、湿度50%から90%まで変化させた環境条件下での作業効率を調べている
https://gyazo.com/c2f5d73e82d3587455581f055f744544
熟練タイピストによる無意味つづり打ち作業、英文の中から特定の文字を探して抹消する作業、および熟練の電信技術者による無意味つづりの送信作業
最も誤反応が少なかったのは温度に関しては10℃から20℃
それ以上でもそれ以下でも誤作業は増加した
湿度に関して温度の影響が大きく、35℃以上では動作の乱れ、誤り、脱落が激しくなった
3-2. 姿勢の崩れによる動作の失敗
主作業が終了した直後のふとした動作は無造作に行われることが多い
高い場所や危険物の近くでは、こうした無意識に近い動作が大きな事故につながる可能性は少なくない 3-3. 周辺的行動の失敗
我々は多くの場面で、同時に複数の動作を行っている
その全てに注意を払っていられるわけではない
意識の中心部で何かを考えながら動作をしていると、そうでないときに比べて、動作の正確度はいくらか低下すると考えられる
狩野が行ったその低下度を調べるための実験
小さな円が連続的に書かれた図で、それぞれの小円に鉛筆で点を打ちながら暗算を行う
暗算なしの場合に比べ、暗算しながらの点打ち作業では、誤反応が1.5倍から3.5倍にも増加したという
狩野の時代にはなかった事例として、車の運転中の携帯電話使用の問題
同乗者との会話に比べて、その場にいない第三者との会話は、やはり事故の危険を増加させるものと言えるだろう
3-4. 行動の錯誤による失敗
ある対象に注意が固定してしまって、前後を忘れてその対象に直進してしまう行動のこと
e.g. ボール遊びをして道路に飛び出す
外界の知覚の失敗
慣れた作業環境だと、周囲の環境や対象の状況を良く見ないで行動し、その状況の変化に気付かずに、機械的に行動を反復してしまうことがある
人が外界の環境をほとんど意識することがなくなってしまい、実は違っているものにも、同じように行動してしまうことがある
1942年にルーチンスが発見
参加者の課題
3つの甕ABCがあり、それぞれの甕に入れられる水の量が表1だったとき、必要な量の水を得るのに、3つの甕をどのように使えば良いか考える
https://gyazo.com/7aa5e1e11555a979a9b882206550cb1f
順番に答えを考えていった参加者の多くが$ B-A-2Cという答えに到達し、問題11まで全部その方式で解答しようとするようになる
問題1は練習問題
この式で全ての問題は解けるが、問題7以降は$ A-Cか$ A+Cで解ける
ところが人は一旦解決策を見つけると、別の可能性を探そうとしなくなってしまう傾向があり、そのために時にとんでもない事故に見舞われてしまうこともある
狩野も反復動作が続くと、無意識にそれを行ってしまいやすい人の傾向をアメフリテストと呼ばれる実験で示している 課題
多くのカタカナ文字がランダムに多数並んだものを参加者に示し、それらのカタカナ文字を端から斜線で消していく
ただし、「ア, メ, フ, リ」の4文字だけは消さずに残しておく
文字のほとんどを抹消するので、抹消作業を行っているうちに無意識に文字を消してしまい、残すべき文字に注意を払うことが疎かになりやすい
急いでいる、急迫した事態での誤認、錯誤
冷静に合理的に物事を考えることができずに失敗につながる場合がある
看護の場面のミスの多くが忙しさ、慌ただしさをミスの原因として指摘している
狩野の実験
課題
配線図に示されたスイッチの切り替えをすること
条件(配線図は同一)
平静条件
紙に印刷された配線図上で、各端末に付けられた電球(全8個)を消すのに、それぞれのスイッチをどのように切り替えればよいのかを紙上で書く
時間制限なし、急がずゆっくりと、よく考えて行うこと、できるだけ切り替えの回数が少なくなるようにすることを指示する
急迫条件
回路が実際に壁上に作られ、上に水槽が取り付けられる
電球の代わりに各端末に蛇口が取り付けられ、そこから水が吹き出す
実験参加者は自分がずぶ濡れになってしまう前に、できるだけ早くそれらの蛇口の水を止めるために、切り替えスイッチを操作しなければならない
途中で不快なブザー音が、さらに切迫感を助長するように鳴り始める
結果
https://gyazo.com/674185dba162e0117a48c90387c713fb
急迫条件
切り替え回数は3〜4倍
個人差が大きくなった
スイッチの切替1回あたりの所要時間ではよく考えずに慌てて切り替えようとしていた
スイッチの切替に際して、全体を見通さずに、場当たり的に試行錯誤的にやっていることが多くそのために無効手数が多くなっていた
急いでいたり、意外な結果に驚いていたり、あるいは行き詰まってしまってどうしてよいかわからない場合、混乱した無意味な動作が現れていた
急迫条件の場合、一旦固執してしまうと、なかなか考えを替えたり、改めて全体を見直すといった余裕がなかった
対象物の見誤りも多い
ここに列挙した以外にも、様々な労働災害の原因となる要因はある
その多くは、第三者から見ると理解できないような場合が多い
狩野「不注意は人が故意に不注意になるのではなく、自然法則的に不注意という現象が起こる」
この「自然法則」を明らかにすることは心理学の大切な使命の一つ